子どもの「推し活」を倫理的に見守るには SNS、課金、人間関係…保護者ガイド
デジタル時代の「推し活」保護者の悩みと倫理教育の必要性
思春期のお子様にとって、「推し」の存在は心の支えや成長の原動力となり得ます。好きなアーティストやキャラクター、ゲーム、インフルエンサーなどを応援する「推し活」は、古くからある文化ですが、デジタル技術の進化によりその様相は大きく変化しました。SNSで情報を収集・発信し、オンラインストアでグッズを購入し、動画配信を視聴し、オンラインコミュニティで交流するなど、活動の場はデジタル空間へと急速に広がっています。
こうしたデジタル化された「推し活」は、子どもにとって多くの楽しみや学びをもたらす一方で、保護者にとっては見えにくい、理解しにくい部分も多く、新たな悩みや懸念が生じています。「子どもがスマホばかり見ている」「知らない人とのやり取りが心配」「気づいたら高額な課金をしていた」「『推し』に関する情報に一喜一憂して感情が不安定になる」といった声を聞く機会が増えています。
これらの問題は、単なる利用時間の制限や規制だけでは解決しません。デジタル空間での活動を通じて、子どもたちが情報との向き合い方、他者との関わり方、お金の使い方、そして自分自身の感情との向き合い方といった、倫理的な判断力と責任ある行動を身につけるための教育が不可欠になっています。この記事では、デジタル時代の「推し活」に潜む具体的なリスクを掘り下げつつ、保護者がどのように子どもを倫理的にサポートし、安全に、そして前向きに「推し活」と付き合っていくためのヒントを提供します。
デジタル「推し活」に潜む具体的なリスク
デジタル空間で行われる「推し活」には、物理的な活動では起こり得なかった様々なリスクが存在します。思春期のお子様が直面しやすい具体的な課題を理解することが、適切な関わり方の第一歩となります。
1. 過度な時間・金銭の投入
SNSでの情報収集や交流、動画配信の視聴、ゲーム内イベントへの参加など、「推し活」は際限なく時間を費やすことが可能です。また、限定グッズや有料コンテンツへの課金、オンラインくじ、イベントチケットの購入など、魅力的な要素が多く、計画なしにお金を使ってしまいがちな環境があります。気づかないうちに家計を圧迫するほどの金額になったり、他の必要なものを我慢したりといった問題が発生することがあります。
2. 情報過多と誤情報・フェイクニュース
SNSは「推し」に関する最新情報を得る上で非常に強力なツールですが、真偽不明の情報や憶測、デマも瞬時に拡散されます。未確認の情報に振り回されたり、「推し」に関するネガティブな情報に過剰に反応して心を痛めたりすることがあります。また、個人のプライベートな情報が意図せず流出するリスクも伴います。
3. オンラインコミュニティでの人間関係トラブル
同じ「推し」を応援するファン同士の交流は楽しいものですが、オンラインの匿名環境では、言葉遣いが攻撃的になったり、価値観の違いから対立が生まれたりすることがあります。「〇〇ファンの△△さんはマナーが悪い」といった特定の個人や属性に対する誹謗中傷、グループ内での仲間外れ、悪意のある情報操作といったトラブルに巻き込まれる可能性があります。現実の友人関係とは異なる複雑さがあります。
4. ネット詐欺や悪質な誘導
限定グッズの偽アカウント販売、チケット詐欺、個人情報詐取を目的としたキャンペーンサイト、高額情報商材への誘導など、「推し」への熱い気持ちや知識不足につけ込む悪質な手口が多数存在します。お子様がこのような詐欺行為の被害者になったり、知らず知らずのうちに加害行為に加担したりするリスクもゼロではありません。
これらのリスクの背景には、思春期特有の承認欲求や所属欲求、衝動性、そしてデジタル環境における経験や判断力の不足など、様々な要因が絡み合っています。
なぜ今、子どもの「推し活」にデジタル倫理教育が不可欠なのか
「推し活」を巡るリスクは、単に子どもを守るという受動的な観点だけでなく、子ども自身がデジタル社会で倫理的に生きる力を育む絶好の機会と捉えることができます。
1. 情報リテラシーの醸成
何が正しく、何が間違っているのか、どのような情報源を信頼すべきか、受け取った情報をどう解釈し、どう行動に移すべきか。「推し活」を通じて大量の情報に触れる中で、批判的思考力や情報を選別する力が養われます。これは、フェイクニュースや誤情報が蔓延する現代社会において、すべての人が身につけるべき基本的な倫理です。
2. デジタル空間でのコミュニケーション倫理
顔の見えない相手とのやり取り、匿名性のある環境での発言、異なる意見を持つ他者との向き合い方。「推し活」コミュニティでの交流は、現実世界とは異なるコミュニケーションのルールやマナーが存在します。どのような発言が相手を傷つける可能性があるのか、どのようにすれば建設的な対話ができるのか、インターネット上での倫理的な行動規範を学ぶ機会となります。
3. 金銭感覚と自己管理能力
限られたお小遣いや自分で稼いだお金、あるいは保護者から渡されたお金を、「推し活」にどう使うか。計画を立て、予算内でやりくりし、衝動的な消費を抑える経験は、将来の経済的な自立に向けた重要な学びです。デジタルコンテンツやサービスへの課金という、形のないものにお金を使うことの倫理的な意味合い(サービスへの対価、作り手への応援など)を理解することも大切です。
4. 自己肯定感と他者への配慮
「推し」を応援し、同じ趣味を持つ仲間と繋がることは、自己肯定感を高め、居場所を見つけることにつながります。しかし、その一方で、ファン同士の優劣意識や排他的な振る舞い、アンチ活動といった負の側面も存在します。自分の「好き」を大切にしながら、他者の「好き」も尊重すること、匿名環境であっても相手に配慮した言動をとることなど、多様性を認め、他者と共存するための倫理観が求められます。
「推し活」を倫理教育の視点から捉え直すことで、保護者は子どもが直面する課題を単なる「問題行動」として片付けるのではなく、成長の一過程としてサポートするための建設的なアプローチを見出すことができます。
保護者の関わり方・実践編 デジタル「推し活」を倫理的にサポートする
お子様のデジタル「推し活」に対して、保護者がどのように関われば良いのでしょうか。一方的な禁止や頭ごなしの注意は、かえって子どもの反発を招き、状況を悪化させる可能性があります。信頼関係を築きながら、倫理的な判断力を育むための具体的なアプローチを提案します。
1. 関心を持ち、対話のきっかけを作る
まずはお子様の「推し」や「推し活」そのものに関心を持つ姿勢を示すことが大切です。「どんなところが好きなの」「どうやって情報を集めているの」など、質問から始めてみてください。否定的な言葉や批判的な態度は避け、「あなたの好きな世界について教えてほしい」という傾聴の姿勢で臨みます。これにより、お子様は「保護者に話しても大丈夫だ」と感じ、悩みを打ち明けやすくなります。
2. 一緒に家庭内ルールを作成・見直す
デジタルデバイスの利用時間、利用場所、課金額、個人情報の公開範囲など、具体的なルールを一方的に押し付けるのではなく、お子様と話し合いながら一緒に決めます。なぜそのルールが必要なのか(例: 寝不足になると学校がつらい、お金には限りがある、個人情報は悪用される可能性がある)を丁寧に説明し、お子様自身が納得できるように努めます。ルールは一度決めたら終わりではなく、お子様の成長や状況の変化に合わせて定期的に見直すことが重要です。「推し活」の内容に合わせて、「イベントがある日は特別に〇時までOK」「今月はこのグッズに△△円まで使う」など、柔軟な対応も検討しましょう。
3. 情報の真偽を見分ける練習をする
SNSやインターネット上の情報がすべて正しいわけではないことを伝えます。例えば、「その情報はどこから来ているの」「他の情報源ではどう言っているかな」「投稿した人はどんな人かな」など、一緒に情報源を確認したり、複数の情報を見比べる練習をしたりします。公式発表と非公式の情報の違い、個人の憶測や感想と事実との違いを区別するよう促します。
4. オンラインでの人間関係について話し合う
オンライン上での言葉遣いや態度について話し合います。「顔が見えなくても相手には気持ちがあること」「匿名でも責任が伴うこと」を伝えます。他のファンとの交流でトラブルがあった場合は、一方的に非難するのではなく、「どうしてそう感じたのかな」「次はどうすれば良かったと思うかな」など、お子様の感情に寄り添いながら、問題解決や感情のコントロールについて一緒に考えます。もし誹謗中傷を受けたり、見てしまった場合は、スクリーンショットを撮る、通報する、ブロックするなど具体的な対処法を伝えます。
5. トラブル発生時の相談窓口を共有する
万が一、詐欺に遭いそうになったり、深刻な人間関係トラブルに巻き込まれたりした場合は、一人で抱え込まずに必ず保護者に相談すること、信頼できる大人や専門機関に助けを求めることの重要性を伝えます。消費者ホットライン(188)、警察相談専用電話(#9110)、インターネット上の誹謗中傷に関する相談窓口など、具体的な連絡先を共有しておくと安心です。
6. 「考え方」「判断力」を育む声かけ
単に「〇〇はダメ」と禁止するだけでなく、「なぜそう思うの」「こうしたらどうなると思う」など、お子様自身に考えさせる問いかけを意識します。「推し活」における様々な選択(どの情報を信じるか、いくらお金を使うか、誰と交流するかなど)について、自分で判断するための視点や基準を一緒に見つけていきます。
子ども自身の力を育む視点 自律的な「推し活」へ
倫理教育の最終的な目標は、保護者が常に管理することではなく、子ども自身がデジタル環境において主体的に考え、倫理的な判断を下し、責任ある行動をとれるようになることです。「推し活」は、そのための学びの場となり得ます。
「推し活」を通じて培われる、好きなものへの深い探求心、情報収集能力、同じ興味を持つ仲間との協力、イベント企画やグッズ作成へのチャレンジなどは、将来、学業や仕事、趣味など様々な場面で活かせる貴重なスキルです。
お子様が直面したトラブルや失敗を、学びの機会として捉え直しましょう。「失敗は誰にでもあること」「大切なのは、そこから何を学び、次にどう活かすか」というメッセージを伝えます。自分で問題に気づき、解決策を模索するプロセスをサポートします。
「推し活」と現実世界の生活(学校の勉強、部活動、睡眠、家族との時間など)のバランスをとることの重要性も継続的に伝えます。どちらか一方に偏りすぎると、心身の健康や他の大切な関係に影響が出ることを、お子様自身が体験を通じて理解できるよう促します。
まとめ
デジタル時代の「推し活」は、思春期のお子様にとって多くの魅力的な側面を持つと同時に、保護者にとっては見えにくいリスクや倫理的な課題を伴います。しかし、これは一方的に禁止したり管理したりするのではなく、お子様がデジタル社会を生き抜くための倫理観や判断力を育むための、貴重な機会でもあります。
お子様の「推し」や活動に関心を持ち、対話を重ね、一緒にルールを作り、トラブル時には寄り添って解決策を考える。このような保護者の粘り強い関わりが、お子様がデジタル環境において安全に、そして倫理的に行動するための基盤となります。
「推し活」を通じて得られる喜びや学びを応援しつつ、デジタル化に伴うリスクから目を背けず、倫理的な視点からお子様をサポートしていくことが、保護者には求められています。このプロセスを通じて、お子様はデジタル社会の複雑さを理解し、自分自身で考え、判断し、より良い選択をする力を身につけていくでしょう。焦らず、お子様のペースに合わせて、一歩ずつ取り組んでいきましょう。