我が子を加害者にも被害者にもしないために 思春期の子どもと考えるデジタルつきまとい・情報収集の倫理
思春期を迎え、子どもたちのデジタルデバイスの利用はさらに多様化し、オンラインでの人間関係も複雑になります。SNS、オンラインゲーム、メッセージアプリなどを通じた交流は、子どもたちの世界を広げる一方で、新たな課題も生じさせています。その中でも、見過ごされがちなのが「デジタル空間におけるつきまとい」や「許可のない情報収集」といった倫理的な問題です。
見えにくい問題 デジタル空間での「つきまとい」や「情報収集」とは
現実世界でのつきまとい行為は多くの人が危険だと認識していますが、デジタル空間ではその境界線が曖昧になりがちです。例えば、以下のような行為が、思春期の子どもたちの間で問題となることがあります。
- 特定の相手に対して、執拗にメッセージを送り続ける
- 相手のSNS投稿やオンラインでの活動を頻繁にチェックし、コメントや反応を強要する
- オンラインゲーム内で、特定の相手につきまとい、行動を監視する
- 相手の個人情報(学校、居住地域、友人関係など)をオンライン上で探し、本人の許可なく第三者に共有する
- 相手の画像を無断で保存・加工し、拡散する
- オンライン上での嫌がらせや誹謗中傷を繰り返す
これらの行為は、行う側は軽い気持ちであったり、「友達だから」「面白いから」という理由であったりすることがあります。しかし、受ける側にとっては大きな精神的負担となり、不安や恐怖、孤立感につながることがあります。
なぜ思春期の子どもはデジタルな境界線を越えてしまいやすいのか
思春期は、他者との関係性を築く上で試行錯誤を繰り返す時期です。デジタル空間においては、以下のような要因が、こうした倫理的な問題を引き起こしやすくすることが考えられます。
- 匿名性や非対面性: 相手の反応が直接見えにくいため、自分の行動が相手にどのような影響を与えるか想像しにくいことがあります。
- 距離感の欠如: いつでもどこでも繋がれるデジタル環境では、現実世界のような物理的な距離感がなくなり、相手との適切な距離感を保つのが難しくなります。
- 承認欲求: SNSなどで「いいね」やコメントをもらうことに価値を見出しすぎるあまり、特定の相手からの反応を強く求めたり、注目を集めるために他者の情報を利用したりすることがあります。
- 情報の氾濫: インターネット上には様々な情報があふれており、プライバシーの重要性や情報の取り扱いに関する正しい知識が不足している場合があります。
- 倫理観の未発達: まだ善悪の判断や、行動の先の結果を深く考える経験が十分でないため、「これくらいなら大丈夫だろう」と安易な行動をとってしまうことがあります。
デジタル倫理教育が不可欠である理由 プライバシー尊重と思いやりの心を育む
デジタル空間でのつきまといや許可のない情報収集が問題なのは、それが個人のプライバシーを侵害し、相手の人権を軽視する行為であるからです。倫理教育の根本は、「なぜその行動が間違っているのか」を理解し、「なぜ相手を尊重し、思いやりを持って行動すべきなのか」という価値観を育むことにあります。
オンラインであろうとオフラインであろうと、他者のプライバシーは守られるべきものであり、相手の同意なしに情報を集めたり、つきまとったりする行為は、相手の安全や安心を脅かします。子どもたちには、自分自身のプライバシーを守ることと同時に、他者のプライバシーを尊重することの重要性を教える必要があります。これは、単なるルールを教えるだけでなく、他者の立場に立って物事を考える力を養うことにも繋がります。
保護者の関わり方・実践編 子どもと共に学び、対策を講じる
思春期の子どもがこうした問題に直面したとき、あるいは自ら問題を引き起こしてしまったときに、保護者がどのように関わるかは非常に重要です。
1. オープンな対話を心がける
子どものオンラインでの活動全てを把握することは難しいですが、どのようなアプリやゲームを使っているか、誰と交流しているかなど、関心を持つことから始めましょう。子どもがオンラインでの人間関係について安心して話せるような、非難しない、寄り添う姿勢での対話を心がけてください。
2. 具体的なリスクと対策を伝える
「つきまとい行為」がどのような行動を指すのか、それがなぜ問題なのか、そして受ける側がどのような気持ちになるのかを具体的に話しましょう。また、被害に遭った場合の具体的な対策(スクリーンショットで証拠を残す、ブロック機能を使う、信頼できる大人に相談する)や、困ったときに利用できる相談窓口(例:警察相談専用電話 #9110、各都道府県の青少年センター、学校の相談窓口など)の情報を伝えておくことも重要です。
3. 加害者になってしまった場合の対応
もし我が子が無意識のうちに誰かを傷つけたり、つきまといのような行動をとってしまったりした場合は、頭ごなしに叱るのではなく、なぜその行動が問題だったのか、相手がどう感じたかを一緒に考えさせましょう。謝罪が必要であれば、真摯に行うことの重要性を伝え、同じ過ちを繰り返さないための対策(距離の取り方、メッセージを送る前に一度立ち止まることなど)を話し合います。
4. 家庭内ルールにプライバシーと境界線を盛り込む
オンラインでの個人情報の公開範囲、SNSでの繋がりの持ち方、オンラインでの友達との適切な距離感などについて、家庭でルールを話し合って決めましょう。ルールは一方的に押し付けるのではなく、子どもと一緒に考えるプロセスが大切です。なぜそのルールが必要なのか、お互いが納得できる形で設定し、定期的に見直します。
5. 子どもの判断力を育む声かけ
特定の行動について、「これは相手はどう感じると思う?」「もし自分が同じことをされたらどう思う?」といった問いかけを通じて、相手の気持ちを想像し、倫理的に判断する力を養う機会を与えましょう。
子ども自身の力を育むために
最終的には、子ども自身がオンライン空間で遭遇する様々な状況に対し、倫理的な判断に基づき、責任ある行動をとれるようになることが目標です。そのためには、保護者からのサポートだけでなく、子ども自身が以下の力を育むことが大切です。
- 自己肯定感: 他者の承認に過度に依存せず、自分自身の価値を認められるようにサポートします。
- 境界線を設定する力: 自分が不快に感じることや、他者からの不適切な要求に対し、適切に「NO」と言う勇気を持ち、自分の心と体を守る大切さを伝えます。
- 問題解決能力: 困難な状況に直面した際に、一人で抱え込まず、信頼できる人に相談したり、利用できるサポートを探したりする力を育てます。
まとめ
デジタル時代の「つきまとい」や「情報収集」は、思春期の子どもたちが直面しうる深刻な問題です。我が子が被害者にも、そして無意識のうちに加害者にもならないよう、保護者はリスクを理解し、家庭で倫理教育を継続的に行う必要があります。
子どものオンラインでの人間関係に関心を持ち、オープンな対話を続け、具体的な対策を共に考えることが、子どもをこの見えにくいリスクから守る第一歩となります。デジタル空間での正しい距離感、他者のプライバシー尊重、そして思いやりの心を育むことは、子どもたちが健やかにデジタル社会を生き抜く上で不可欠な力となります。保護者の皆様が、子どもと共に学び、成長していくことを願っています。