デジタル時代の親子倫理

ゲーム内アイテム・アカウント売買(RMT)の落とし穴 思春期の子どもに教える倫理、リスク、そしてお金の価値

Tags: ゲーム, RMT, 倫理教育, お金, 思春期, 保護者

デジタル空間に現れる「もう一つのお金」の取引

お子様がオンラインゲームに熱中しているご家庭では、ゲーム内で使用するアイテムやゲームアカウントそのものが、現実のお金で取引されているという話を聞いたことがあるかもしれません。これはリアルマネートレード(RMT)と呼ばれ、多くのオンラインゲームの利用規約で禁止されています。思春期の子どもたちにとって、ゲーム内の特別なアイテムや強いアカウントは非常に魅力的に映ることがあります。そして、それを手っ取り早く、あるいは安く手に入れる方法としてRMTが存在します。

保護者としては、子どもがゲーム内で何をしているのかをすべて把握することは難しいものです。特にRMTは、表向きのゲームプレイとは異なる場所(特定の取引サイト、SNSの非公開グループなど)で行われることが多く、気づきにくい傾向にあります。しかし、このRMTには、単なるルール違反にとどまらない、深刻なリスクや倫理的な問題が潜んでいます。

なぜRMTは問題なのか? 潜む複数の落とし穴

なぜ多くのゲーム運営会社がRMTを禁止しているのでしょうか。そして、なぜそれは思春期の子どもにとって危険なのでしょうか。RMTにはいくつかの大きな問題点があります。

まず、最も現実的なリスクは詐欺の危険性です。お金を支払ったのにアイテムが渡されない、アカウント情報を提供したら連絡が途絶えた、といった金銭的なトラブルは日常茶飯事です。ゲーム内アイテムには法的な所有権が認められない場合が多く、詐欺に遭っても被害回復が非常に困難になることがほとんどです。

次に、アカウントの停止や剥奪のリスクがあります。RMTは利用規約違反であるため、発覚すれば子どもが大切に育ててきたゲームアカウントが永久に利用できなくなる可能性があります。不正行為としてペナルティを受けることは、ゲームコミュニティからの信頼を失うことにもつながります。

また、RMTは個人情報漏洩や不正アクセスの原因となることもあります。取引のために個人情報を交換したり、アカウント情報を渡したりすることは、その情報が悪用されるリスクを高めます。例えば、子どもになりすまして他のゲームで不正を働いたり、登録している他のサービスにアクセスしたりする可能性もゼロではありません。

倫理的な視点からは、RMTはゲームバランスを崩壊させ、ゲームの楽しさを損なう行為です。RMTを利用するプレイヤーは、他のプレイヤーが時間や努力をかけて手に入れるアイテムや成果を、現実のお金で簡単に手にしてしまいます。これは、ゲームを公正にプレイしている他の多くのプレイヤーに対する裏切り行為とも言えます。また、お金で全てが解決するという考え方は、ゲーム内での努力や協力、試行錯誤といった本来のゲームの楽しさや達成感を軽視することにつながります。

さらに、ゲーム内という仮想空間のアイテムやアカウントに現実のお金の価値を見出し、安易に金銭的な取引に関わることは、お金の価値観を歪める可能性があります。本来、ゲーム内アイテムはゲームをプレイする上での付加価値であり、それ自体に現実のお金と同じような交換価値があるわけではありません。この区別があいまいになることは、思春期の子どもにとって健全な金銭感覚を育む上で好ましくありません。また、簡単に手に入れたお金やアイテムによって、さらなるRMTへの依存につながる可能性も否定できません。

倫理教育としてRMTをどう捉えるか

RMTは単なるゲームのルール違反というだけでなく、詐欺、不正アクセス、個人情報漏洩といった犯罪やトラブルのリスク、そして公正さ、努力、お金の価値といった倫理的な問題が複雑に絡み合ったテーマです。だからこそ、RMTの問題について子どもと話し合うことは、デジタル時代の倫理教育として非常に重要であると言えます。

「なぜ運営はRMTを禁止しているのだろう」「RMTで得た強いアイテムを使ってゲームをプレイする他の人はどう感じると思う?」「もし自分が時間と努力をかけてアイテムを手に入れたのに、他の人が簡単にお金でそれを手に入れていたら、どう思う?」といった問いかけを通して、子ども自身にRMTの問題点を考えさせることが大切です。単に「ダメ」と言うだけでなく、「なぜダメなのか」を深く理解させることで、子どもはデジタル空間における他者への配慮や、公正さといった倫理観を育むことができます。

保護者が家庭で実践できる対応策

では、保護者は子どもとRMTについて、どのように話し合い、どのように関われば良いのでしょうか。

  1. RMTのリスクについて具体的に話す機会を持つ: 子どもがRMTを知っているか、あるいは興味を持っているかを確認しつつ、詐欺、アカウント停止、情報漏洩などの具体的な危険性について、冷静に、かつ分かりやすく説明します。ニュースや事例などを交えると、より現実味を持って伝えられるかもしれません。
  2. 子どもとの信頼関係を築き、相談しやすい環境を作る: 「もし何か変な取引の話を持ちかけられたら、一人で決めずに必ず相談してね」と伝え、いつでも親に話せるという安心感を与えることが重要です。頭ごなしに否定するのではなく、まずは子どもの話を聞く姿勢を見せます。
  3. 家庭内ルールにRMT禁止を明記し、理由を共有する: スマホやゲームの利用ルールにRMTを明確に禁止する項目を追加し、その理由を子どもと一緒に確認します。なぜ禁止なのか、その根拠となるリスクや倫理的な問題について、子どもが理解できるよう丁寧に説明します。
  4. お金の価値や使い道について話し合う: RMTの問題をきっかけに、ゲーム内のお金と現実のお金の区別、お金を稼ぐことの大変さ、お金の適切な使い方について話し合う機会を持ちます。お小遣いの管理方法などについて一緒に考えることも有効です。
  5. トラブル発生時の対応を知っておく: もし子どもがRMTに関わってしまい、トラブルに巻き込まれた場合は、感情的に叱る前に、まずは状況を正確に把握することが重要です。ゲーム運営会社への通報、警察への相談、国民生活センターや消費者ホットライン(電話番号188)への相談など、適切な窓口に助けを求める対応を落ち着いて行います。

子ども自身が判断力を育むために

一方的な規制だけでは、子どもは隠れてRMTに手を出してしまう可能性もあります。大切なのは、子ども自身が「RMTは良くないことだ」「リスクが高すぎる」と倫理的に、そして現実的に判断できるようになることです。

ゲーム内で正当な努力やコミュニティへの貢献によって得られる達成感や評価の価値を再認識させたり、ゲームをプレイする上でのマナーや倫理について話し合ったりすることも、子どもの健全なデジタル市民としての意識を育む上で役立ちます。また、子どもが「お金が欲しい」と言う場合は、安易なRMTに走るのではなく、どのような方法でお金を稼ぐことができるのか、あるいはどのように工夫してお小遣いの範囲でゲームを楽しむことができるのかを一緒に考える機会にすることもできます。

まとめ

ゲーム内アイテム・アカウント売買(RMT)は、思春期の子どもにとって身近に潜むデジタル空間の危険の一つです。この問題は、単なるゲームの遊び方にとどまらず、詐欺や情報漏洩といった現実的なリスク、そしてお金の価値、公正さ、努力といった倫理的な問題を含んでいます。

保護者がRMTについて正しく理解し、頭ごなしに禁止するのではなく、子どもとの対話を通じてその危険性や倫理的な問題点を丁寧に伝え、子ども自身が考え、判断できる力を育むことが重要です。デジタル空間で子どもたちが健全に成長していくために、RMTの問題を家族で学び、乗り越える機会としていただければ幸いです。