SNSの「いいね」やインフルエンサー文化 思春期の子どもが承認欲求と倫理的に向き合うために保護者ができること
思春期の子どもとSNS、増える「いいね」への複雑な感情
お子様がスマートフォンを手にし、SNSの世界に触れる機会が増えるにつれて、保護者の皆様は新たな心配事を抱えることがあるかもしれません。特に思春期のお子様の場合、SNSでの「いいね」やフォロワー数、そして華やかなインフルエンサーの生活が、自己肯定感や他者との比較に大きく影響を与えることがあります。
「うちの子も、やたらと『いいね』の数を気にしているようだ」「キラキラしたインフルエンサーに憧れて、無理な言動をしないか不安だ」
このような悩みは、現代の子育てにおいて多くの保護者が直面している課題です。子どもたちがデジタル空間で健全な心の成長を遂げ、倫理的な判断力を身につけるためには、保護者の理解と適切なサポートが不可欠です。この記事では、思春期の子どもとSNSの承認欲求、そして保護者が家庭でできる倫理的な関わり方について考えていきます。
SNSの承認欲求と思春期の子どもに潜むリスク
SNSは、手軽に自己表現ができ、他者と繋がれる便利なツールです。しかし同時に、「いいね」やコメントといった数値化された反応が、自己の価値を測る基準になり得ることがあります。思春期は、自己同一性を確立し、他者からの評価を気にする時期でもあります。そのような発達段階にある子どもたちにとって、SNSでの反応は、自身の存在や価値を確かめる重要な要素となり得るのです。
- 過度な承認欲求: SNSでの「いいね」や好意的なコメントは、脳に快感をもたらすドーパミンを分泌させると言われています。この快感が繰り返されることで、「もっと多くの『いいね』が欲しい」という欲求が強まることがあります。時には、危険な行動や倫理的に問題のある投稿をしてでも注目を集めようとするリスクも生じます。
- インフルエンサーの影響: SNS上のインフルエンサーは、多くのフォロワーを持ち、魅力的なライフスタイルを発信しています。これに憧れることは自然なことですが、その裏にある努力やビジネス的な側面が見えにくいため、表面的な部分だけを真似ようとしたり、「自分もあんな風になりたい」と現実離れした目標設定をしてしまったりすることがあります。
- 他者との比較: SNSでは、他者の「良い部分」だけが強調されがちです。それを見ることで、子どもは自分の現状と他者の理想化された姿を比較し、「自分はダメだ」と感じたり、自己肯定感を低下させたりすることがあります。また、友人間の「いいね」の数やコメントの質を気にしすぎることが、人間関係の新たなストレス源になることもあります。
- 疲弊と心の不調: 常に他者の評価を気にし、投稿内容やタイミングに気を遣うことは、子どもにとって大きな精神的負担となります。期待する反応が得られなかった場合の落胆や、SNS上での人間関係のトラブルなどが、不安や抑うつといった心の不調につながる可能性も否定できません。
このようなリスクは、単にSNSの利用時間を制限するだけでは解決できません。子ども自身が、SNSの特性を理解し、そこで生まれる感情や欲求に倫理的に向き合う力を身につけることが重要なのです。
なぜ今、子どものデジタル倫理教育が不可欠なのか
デジタル空間における「倫理」とは、単に法律やルールを守ることだけでなく、「他者への配慮」「情報の真偽を見極める力」「自分の行動が他者に与える影響を想像する力」「自己の価値を多角的に捉える力」といった、人間関係や社会生活を営む上で不可欠な価値観や判断基準をデジタル環境に応用することです。
SNSにおける承認欲求との向き合い方は、まさにこのデジタル倫理教育の重要な側面です。なぜなら、過度な承認欲求は、他者の感情を無視した無責任な投稿や、プライバシーの軽視、さらには誹謗中傷といった倫理的に問題のある行動につながる可能性があるからです。
子どもたちが、短期的な「いいね」という報酬に囚われず、長期的な視点で自分のオンライン上での振る舞いや、他者との関わり方を考えるようになるためには、「なぜその行動が問題なのか」「どのような振る舞いが倫理的と言えるのか」を理解する必要があります。「ダメだからダメ」ではなく、その行為の背景にある倫理的な理由や、他者への影響を丁寧に伝えていくことが、子どもの内面に倫理観を育む上で不可欠です。
保護者の関わり方:対話と共感から始める実践編
では、保護者は具体的にどのように子どもをサポートすれば良いのでしょうか。思春期の子どもは、保護者の直接的な干渉に反発することもあります。大切なのは、一方的な規制ではなく、子どもとの信頼関係に基づいた対話を通じて、共に考え、学ぶ姿勢を持つことです。
- 子どもの話に耳を傾ける: まずは、お子様がSNSでどのようなことに興味を持ち、どのような感情を抱いているのか、率直に話を聞いてみましょう。インフルエンサーのどういうところが魅力的なのか、「いいね」が多いとどういう気持ちになるのかなど、子どもの感じていることを否定せず、共感的な態度で受け止めることが大切です。「そうなんだね」「そういう風に感じるんだね」といった相槌や肯定的な反応を示しましょう。
- SNSの特性について一緒に学ぶ: SNSは、現実の一部を切り取って見せるものであること、そして「いいね」の数やコメントがその人の価値をすべて決めるわけではないことを、具体的な例を挙げながら一緒に考えてみましょう。インフルエンサーの投稿の裏側にある編集や加工、企業案件といった側面について話し合うことも、子どもがSNSを多角的に捉える助けになります。
- 家庭内ルールの見直しと合意形成: SNSの利用時間だけでなく、「誰かを傷つけるようなコメントはしない」「プライベートすぎる情報は載せない」「友達の写真を許可なくアップしない」といった、倫理的な観点からのルールを、子どもと一緒に話し合って決めましょう。なぜこれらのルールが必要なのか、その理由を丁寧に説明し、子ども自身が納得できる形で合意形成を図ることが、ルールの遵守につながります。
- 自己肯定感を育む声かけ: SNSでの評価に関わらず、子どもの良いところ、頑張っているところを具体的に褒め、愛情を伝えましょう。「SNSの『いいね』が少なくても、お父さん(お母さん)はあなたのこういうところが素晴らしいと思っているよ」といった言葉は、子どもが自己の価値を多角的に捉える助けになります。
- トラブル発生時の対応: 万が一、子どもがSNSでトラブルに巻き込まれたり、意図せず誰かを傷つけてしまったりした場合、決して子どもを責めず、まずは安全を確保することを最優先に、冷静に状況を把握しましょう。一緒に解決策を考え、必要であれば学校や専門機関(インターネットホットラインセンター、よりそいホットラインなど)に相談することも検討してください。
子ども自身が倫理的な判断力を育むために
倫理教育の最終的な目標は、子ども自身が多様な情報や状況の中で、何が倫理的に正しい行動であるかを判断し、責任ある行動をとれるようになることです。そのためには、保護者の一方的な指示だけでなく、子どもが自分で考え、選択する機会を与えることが重要です。
- 問いかけを通じた思考の促進: 「もしあなたがこの投稿を見たら、どう思う?」「こういうコメントが来たら、どんな気持ちになると思う?」といった問いかけを通じて、他者の視点に立つ練習を促しましょう。「なぜそう思うの?」と理由を尋ねることで、自分の考えを言葉にする力、論理的に思考する力を養うことができます。
- テクノロジーの良い面も活用する: SNSはリスクだけでなく、学びや成長の機会も提供します。共通の趣味を持つ人と繋がったり、新しい情報を得たり、創造性を発揮したりといったSNSの良い側面についても話し合い、バランスの取れた見方を促しましょう。
- 失敗から学ぶ機会を与える: 子どもが倫理的に間違った判断をしてしまうこともあるかもしれません。そのような時こそ、頭ごなしに叱るのではなく、「なぜそれが良くなかったのか」を一緒に振り返り、次にどうすれば良いかを考える機会と捉えましょう。失敗を恐れず、学びの機会とすることで、子どもはより深く倫理について理解を深めていきます。
まとめ:焦らず、共に学び続ける姿勢を
思春期の子どもがSNSの「いいね」やインフルエンサーに影響され、承認欲求と向き合うことは、現代の子育てにおける避けられないテーマの一つです。これは、子どもが自己や他者、社会との関わり方を学ぶ過程でもあります。
保護者としては、子どものオンライン上での振る舞いをすべて把握することは難しいかもしれません。しかし、大切なのは完璧な管理を目指すことではなく、子どもとの信頼関係を築き、オープンな対話を続けることです。SNSの特性や潜むリスクについて共に学び、倫理的な観点からの話し合いを重ねることで、子どもは自身の行動が他者に与える影響を考え、より良い選択をする力を身につけていきます。
焦らず、一歩ずつ。保護者自身も学びながら、お子様がデジタル時代を心身共に健やかに、そして倫理的に生き抜くためのサポートを続けていきましょう。